新倉 章子 -Akiko Niikura-

​「南天」/460×255mm

草はただ風に揺れ、花はただそこに咲く…

新倉さんの描く草花たちは、徹底してそこに「ただ在る」を貫いている印象があります。植物を見た時に人がよく言いたがる「綺麗」や「力強い」といった類の言い回しとそこに付随する意味づけをことごとく削いで、「ただ在る」ことの無意味さ、そしてそのことの難しさと尊さを見事に描き出し、そこからしか生まれない「美」がそこにはある、そんな気がします。

当たり前ですが枯れない草花はありません。しかし人は自分が一番美しいと思う植物の一瞬の姿を現実の時間軸から切り抜き、その瞬間だけをまるで冷凍保存するかのように描きとめたり写真で撮ることができます。しかし新倉さんの描いた植物はどこかそういうよくある植物絵とは違うと思うのです。植物の美しい瞬間を描きとめるという点では先述と同じなのですが、新倉さんの絵の中の植物は現実の時間軸をそのまま持っている気がするのです。絵の中では咲き誇る花の姿ですが、その姿はやがて茶色くなり枯れていき、最後はそこから居なくなっていく…そういう描きとめた時から先のことが、さらに言えばその花が咲き誇る瞬間までの過去の時間すらも何となく感じることができます。あくまで画面上の草花の姿はその存在のほんの一場面に過ぎず、その場面をとっかかりに前後の奥行きを感じさせ、存在の全貌を感覚的に表出させる…新倉さんの絵の真髄はそこにあるように思うのです。

「綺麗な植物」を描くのでは無く、ただそこに生えていた草花をそのまま描くこと。のびやかな草花の息遣いを筆に乗せ、確かな水墨画の技術で紙の上に再び命を吹き込んでいく。そうして出来上がる作品に、意味付けという伴奏は不必要なように感じます。純粋なまでにただ在る「だけ」の無伴奏な作品たち、そこに描かれたのは画家が見てきたただ在る「だけ」の草花です。そこに何を感じるかは、鑑賞者だけの自由な領域ではないでしょうか。

(2021年個展「無伴奏」によせて)

新倉 章子 -Akiko Niikura-

【経歴】

1961年に東京に生まれる。

早稲田大学大学院文学研究科(哲学)修士課程を修了した後、松林桂月の流れをくむ水墨画家・故原寿美に師事し、書と水墨画を学ぶ。

水墨画公募展受賞歴としては文部科学大臣賞、外務大臣賞、準大賞など。

 

【活動経歴】

2007-14年    NHK学園新宿オープンスクールで水墨画の講師を務める

2012-13年    美学校 超日本画ゼミを受講、グループ展に参加

2018年        アートギャラリー閑々居にて初個展(新橋)

                数寄和「ギャラリーへ行こう2018」入選(西荻窪)

                日本水墨画大賞展に野地耕一郎氏の推薦により出品・準大賞受賞※

2019年        アートギャラリー閑々居常設展出品(新橋)

                日貿出版社『付け立てを極める』にて「新倉章子の墨表現」が掲載

                数寄和「ギャラリーへ行こう2019」入選(西荻窪)

2020年        アートギャラリー閑々居にて個展(新橋)

                数寄和「ギャラリーへ行こう2020」入選(西荻窪)

2021年        企画画廊くじらのほねにて個展(西千葉)

 

【日本水墨画大賞展 審査講評】※

松林桂月流の南画(文人画)の流れを継承しながら、宗達流や琳派画風や中国明時代末期の徐渭、八大山人らの水墨表現に学んだハイブリッドな水墨画である。しかし、ただ新規に走らず、古様に親しい風格がとても魅力的な作家であり、作品である。

野地耕一郎(泉屋博古館分館長)

 

 

松林桂月(まつばやしけけいげつ)=明治から昭和期の近代を代表する日本画家・水墨画家。

徐渭(じょい)=中国明代の偉大な文人。書・画・詩・詞・戯曲・散文など多才で知られる。

八大山人(はちだいさんじん)=中国明代末期から清代初期の画家・書家・詩人。

© 企画画廊くじらのほね
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