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中條 いずみ -Izumi Nakajo-
「讃美歌21.425」/ F8号(45.5×38cm)
「生活者の絵」というジャンルがもしあるのであれば、中條いずみさんの絵は間違えなくこのジャンルに入ると私は思います。人間は誰しも生きる中で「生活」という営みを余儀なくされます。日々連続するその営みは年月を重ねるほどにその人自身の人生のフィールドとして蓄積し、やがてはその人そのものを形作っていくものなのかもしれません。中條さんの絵を見ていると、その中に広がる土壌は描き手である中條さんの生活と地続きであることが自然と感じられ、その無理のない澄んだ魅力は日々を精一杯生きる人であればどんな場所に身を置く人でも、一滴のしずくが落ちたかのような強さで何かが揺さぶられるような心地を覚えるかもしれません。「優しい絵」と言ってしまうのは簡単ですが、その優しさに到達するまでに積み重ねてきた歳月の中身はきっと楽しいことばかりではなかったのだろうと絵を眺めながら何となく思いました。絵から感じられる温度感は中條さん自身の温かさときっと差異が無く、だからこそ絵を目にした人が思わず立ち止まって眺めていたくなるような安堵感にも似た独特の気配と空気が宿っているような気がしています。
「生活者の絵」に区分できそうな絵を描く作家は当画廊でお世話になっている方々にも何名かいらっしゃいますが、そのどれをも見ていて思うのは、本当にその時のその人だからこそ描けた絵であるということです。違う人が表面上の作風を真似ることはいくらでも出来ますが、その人から自然とあふれ出るように描かれた絵には、それを模しただけの絵には絶対に出せないような「自然美」にも似た美しさが存在します。中條さんの作品もまた、その絵が持つ一番美しい要素は目に見えるものではなく、それ故にその「美」はごく自然に輝くことが出来ているように思います。周囲に左右されることなくその人なりの文脈の中で何かを描いていくことは、何かと雑念の多い現代では難しい面もあるのかもしれません。ですが純度の高いその自然な流れの中でしか生じることが出来ない美しさは確かにあると思います。
(2023年9月 中條いずみ個展「くじらのゆめ」によせて)
中條 いずみ -Izumi Nakajo-
この地球上に
彼らが存在していることを
ふと
おもうとき
深く青い音楽の静けさ
光臨む境界線のやわらかさに
わたしは
わたしをとりもどす
【Profile】
1979年 岩手県盛岡生まれ育ち
岩手大学人文社会科学部卒業
現在保育園看護師職
二児の母